川端裕人さんの「みんなのPTAを探して」(「婦人公論」連載:2007/4〜2008/3)のバックナンバーを「ブログ版」として公開しています。(著者公認)
 はじめていらっしゃった方は、まずは著者本人の「ごあいさつ」をお読みください。
管理人:Pさん
 

2007年10月23日

第1回 そんなのやらされてるの?


本家関連エントリー
 PTA連載、はじまります!@婦人公論 (2007.4.7)
 婦人公論連載をPDF化します。 (2007.10.12)


 この連載では、「みんなのPTA」について考えてみたいと思っている。

 ぼくの身の回りにはキャリアとして働いている女性が多いのだけれど、子供が小学校に入った途端に、彼女らがぶち当たる壁はPTAだ。耳を傾ければ不満たらたら、子供の就学を控えた「未体験」の母親の場合は不安にはち切れそうになっていることもある。
 それは時としてその人の人生に強烈なトラウマを残すほど強烈な体験をもたらすらしい。その一方で「心配するよりも参加した方が易し、やって良かった」といったポジティブな体験になることもある。

 両方とも本当のことだ。

 PTAは人が人生の中で出会う最低最悪の組織にも、燦然と光り輝くすばらしいものになり得る。そして、どうでやるなら素晴らしいものに近づきたい。それこそ、「みんなのPTA」と胸を張って言えるようなものに。
 そのためには、PTAという組織がなんのためにできて、今どのようなしくみで動いており、どんな問題を抱えているのか、時間軸を行ったり来たりしつつ、同時に幅広い視野を確保して、議論を進めなければならないだろう。それはおいおい着手する課題。

 けれど、最初の最初に書かなければならないのは、やはり個人史的な部分だ。ぼくがPTAについて語りたいと願う動機、それも現役のPTA活動をしている今、あえて語りたいと願っているのが、その根っこの話。

■ 僕のPTAライフの始まり


 今から3年前のこと息子が地元の公立小学校に入学して、保護者であるぼくは自動的にPTA会員になった。最初の保護者会の時に「役決め」があり、とりあえずどれでもよかったので、役員選出委員会なるものに手を挙げた。ものの十五分ですべての役員・係が決まりごくごく穏やかに、ぼくにとっては当面続くはずの「PTAライフ」が始まった。

 役員選出委員会の仕事は文字通り翌年度の役員を選ぶことだ。ぼくが所属するPTAでは、クラスでの話し合いで選ばれた役員候補が「互選会」という会議に出席し、ふたたび話し合いの中で新役員をきめていく。役員選出委員であるぼくは、自分のクラスから互選会に出る役員候補を決める会議を開いたり、互選会での議論が
スムーズに運ぶようサポートしたりするのが任務だった。要所要所でクリエイティヴな工夫が必要とされ、なかなかやりがいがある仕事だった。温厚で効率的で水際だった運営をする委員長や同僚にも恵まれて、とても充実した活動ができたと思う。

 というようなことを、その頃、母や妹に話すと、えーっ、PTAなんかやらされているの?」と驚かれた。
 母はいうまでもなく子育ての大先輩だし、妹は息子よりも二つ年長の子供をもつ「ちょっと先輩」だ。彼女たちにとって、PTAとは、「できればやりたくないもの」であり、時々、「やりたくないのに、やらされる」ものらしい。
「いや、やらされているんじゃなくて、やっているんだけど……」と言うのだが、共通の認識の基盤がなく、ぼくは口ごもってしまう。それに、たしかに、彼女らの驚きも分からなくはないのだ。

 ぼく自身、みずから積極的にかかわるようになる前は(つまり子どもの入学前は)、PTAのことを偏見に満ちた目で見ていた。漫画にでてくるような「とんがり眼鏡で、ざーます口調」のお母さんが実在して、俗悪番組を告発したり、エロ本の自販機を撤去させたりしているのだと思っていた。ヒステリックで、やたら真面目で堅苦しくて、不寛容。言葉にすると、そんなかんじだ。

 実際に、中に入ってみるとイメージ通りの人などいない。ごくごく普通の母親であり(時に父親であり)社会的な常識もあれば、穏健で、バランス感覚に優れた人が多いと感じる。にもかかわらず、ああいうイメージを抱いたのはなぜだろう。
「目に見えるもの」とイメージの差に違和感を抱く。ひょっとして、誰にもきっとあるはずの「とんがり・ざーます成分」を、各人が少しずつ持ち寄って、全体としてはイメージ通りの団体になってしまうような機能を日本のPTAは備えているのだろうか。

■ ブログに寄せられた声


 自分のブログでPTAのことを話題にするようになったのも、やはり3年前だ。コメント欄に寄せられる声はそのときの話題によって様々なのだが、必ず一定数非常にネガティヴな声が混ざる。PTAに何かを期待しても無駄、とか、しょせんヒマをもてあました人たちがやっているだけなんだから真面目に論じても仕方ない、といった論調。ぼくが役員に立候補しようと決めた時にには、精神的にずたずたになって後悔するのがおち、といった助言をもらったりもしたっけ。

 思い立って先日、あたらめて問いかけてみた。

PTAのイメージってどうよ?
一言でのべてください。ネガティヴなものでも
ポジティヴなものでもなんでも結構。

 たくさんの回答(とはいえ、ぼくのブログでは多くても100コメントを超えることはないのだが)が寄せられた。
 PTAを未経験の人と、経験者をわけてみると興味深い。

 まずは未経験者。

  • 名前はよくでてくるのに、何をしているのかはさっぱりわからない組織。
  • とんでも圧力団体
  • 子供の内申点かせぎのツール
  • 誰かの犠牲で活動が成り立っている団体
  • 所属していると何も言えないのに、団体として発言するとトンでもない事を言う集団
  • 得体の知れない、大人の事情漂う秘密組織
  • お母さん達が集まって、先生と何か話してる
 PTA未経験者にとってはやはり、まず「何をやっているのか分からない」「得体が知れない」という部分が先に立つらしい。悪い意味での「圧力団体」のイメージは、教育環境浄化運動の中で、「俗悪」なテレビ番組(世間的には愛されも支持もされているものが多い)をやり玉にあげることなどを指しているのだろう。

 一方、PTA経験者のコメントはどうか、これが、ぼくには非常に衝撃的だった。

  • 自発精神の吸収体
  • 目的を見失って惰性で動いていることが多い奉仕活動(役員経験者)
  • 修行の場。決して強くお勧めはしないが、やってみれば楽しい事もあるかも(役員経験者)
  • 世の中の縮図・人生の縮図(役員経験者)
  • 伝統と権威的な上っ面でなんとか保っている団体
  • 財政破綻目指して突き進む地方自治体のごときもの
  • 学校の下請け機関/『ボランティアの義務化』の先輩/理念が忘れ去られ、形骸化してしまったもの(教員)
  • PTAに民主主義は無い(役員経験者)
 なんだこれは!

 ニュートラルな表現はあるものの、むしろ、ネガティヴなニュアンス満載ではないか。ある程度予想はしていたとはいえ、これほど「一色」になるとは思わなかった。

■ 可能性と不自由さと


 さらに困ったことに、ぼくはこれらのコメントにいちいちいなずけるのだ。

 例えば─────

目的を見失って惰性で動いている」というのは、経験上、しばしば真実だ(けれど、時々、ちゃんと目的を思い出すし、クリエイティヴになりうるから、捨てたもんじゃない)。

修行の場」というのは強く合意。ストレスもたくさんある。しかし、むしろこれまで集団活動に背を向けてきた自分にとって、欠けていたものを補う場でもあるのだ、と前向きに捉えられるから、悲観したことはない。

世の中の縮図・人生の縮図」というのも、うんうんそうだよなとうなづく。いろいろな人がいる。だから楽しい、といいたいところだ。

伝統と権威的な上っ面でなんとか保っている団体」というのは、「毎年同じことをする」のを是とするやり方をいうのなら、確かにそういう傾向はある。しかし、「権威」はあるだろうか。自分の経験ではとりたてて感じないが、人づてには「権威を振りかざす」会長や校長の話しはよく聞く。

理念が忘れ去られ形骸化してしまったもの」というのは、たしかにそうかもしれない。子どものために何かをする団体という意識ばかりが強くて、じゃあ何が「子どものため」なのか、さまざまな意見をぶつけあい、すり合わせる議論をするのを嫌っていはいないか。本来、会員相互による学習の場だったはずなのに、それを明確に意識している人に出会う事は希だ。

PTAに民主主義はない」というのは切ない。でも、分かる。一見、PTAは非民主的だ。一人の声が響かない。総会で発言するのは勇気がいるし、もしもみんなが発言したら収集がつかなくなると不安がる人もいる。ぼく自身も、言いようのない閉塞感に捕われることがある。にもかかわらず、個人史上、もっともすてきな民主主義体験も(これまでのところだが)PTAから得た。

 それにしてもこういうコメントを読んでいると、自分がPTAについて、大きな挫折感を抱かず、また強烈なトラウマをこれまでのところ植え付けられてもいないのは、むしろ幸運だったのではないかと思えてくる。
 同じ問いに、自分自身が答えるとしたら、こんなかんじになる。

 PTAとは─────

 ミンシュシュギの可能性に満ちた、眠れる竜。しかし、目下、とても不自由。

 ネガティブな面は認めた上で(これは現実認識をきちんとすれば、そういうことになると思う)、PTAにはわくわくするほどの可能性が眠っているとぼくは感じているのだ。

■ 「おかしさ」の原点


 もっとも、ぼくが挫折感ともトラウマとも、まったく無縁だというわけではない。そこのところは、きちんと強調しておかねば。

 母や妹の「やらされているの?」という問いかけに、どことなくしどろもどろになったり、先のコメントにいちいち頷いているあたり、ぼくにもやりきれていない部分がたくさんある。そのあたりの実感は、これから何度も書く機会があるだろう。

 今、述べておかねばならないのは、それらのうちで最初にして最大のもの。
 つまり─────

 自動加入・強制加入の問題だ。

 実はこのことをきっかけにぼくはいろいろ「勉強」しばじめ、実際に深くかかわってみようという気にもなり、ひいては、こんな連載を持つに至った。

 どんな問題かというと、たぶんPTAを知らない人には驚かれる。しかし、知っていて馴染んでいる人には(組織の中枢に近い人ほど)なぜそれが問題なのか分からない。
 つまり、多くのPTAは、子供が入学したとたん、自動的に加入することになっている。それがむしろ「当たり前」だ。自動加入、強制加入といった表現がされるのだが、それを知った時、ぼくははっきりと「おかしい」と感じた。

 PTAとは、日本語で「親と教師の会」であり、会員組織だ。そして、ぼくが理解するかぎり、いかなる「会」も本人の承諾なしに会員にすることはできない。ぼくにはこれが最初、とても重大なことに思えた。そして、今も思っている。さて、それは妥当なことなのだろうか。

 というのは、次回─────。

著:川端裕人
(婦人公論 2007.4.22 掲載)

PDF版注釈
 この文書は、川端裕人が中央公論新社の「婦人公論」誌上にて、2007年4月より1年間にわたって連載した(文書作成時は連載中)、「みんなのPTAをさがして」をPDF化したものです。多くの人に読んでいただくために、ブログ・リヴァイアさん、日々のわざ にて公開することにしました。このままの形であれば、自由に複製・配布してくださってかまいません。
 なお、このPDF版は、入稿時の原稿を元にして、体裁を整えたものです。誤字脱字などの誤りは、多く残っており、また、細かな点で、雑誌掲載時とは違う部分があることはご承知置きください。
川端裕人
posted by Pさん at 16:23| Comment(2) | TrackBack(0) | 記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ひょんなことから川端さんのブログにめぐり会い、第1回目を読ませていただきました。本来ならすべてを読んだ後に書き込みをすれば良いのかと思いましたが、とりあえず読んだ後毎に書き込ませてもらいます。
私は二十数年前に息子が幼稚園に入園以来、11年間PTAに携わらせていただきました。
今もその延長のようなもので主任児童委員という子ども専門の民生委員をしています。
私は常にPTAの役員をしていましたので経験者のことはわかりますが、未経験者がPTAに対してどのように思っているかは知りませんでした。川端さんのブログを興味深く読ませてもらいました。
私がこれまで関わってきたPTAで感じたのはPTA会員がどのように感じるのかはそのPTAの指導者次第だと思います。もちろんすべての会員が好感を持つPTAには成りうることはありません。過半数以上の人が良く感じてもらえるようにはなると思います。

民主的な運営をするには会議を民主的に行うことだと思います。個々の意見を聞きながら最終的には多数決で賛成の意見が多い方にしますが、時には悪くなるかもしれませんが、みなさんの意見でそうなったのですからしかたがないと思います。

本来の目的でのPTA活動をすればPTAも捨てたものではないと思っています。楽しいときもあれば落ち込むときもありますが、それも生涯学習のひとつかも知れません。

文章を書くのが苦手なもので上手く伝えることができたかどうか分かりませんが、ひとつの考えだと思って読んでください。

waya



Posted by waya at 2009年01月19日 19:07
wayaさん、初めまして。
管理人です。

せっかくコメントをいただきながら、掲載が遅れて申し訳ありませんでした。
管理人の不精と、システム運用上の手違が原因です。
今後は気をつけたいと思います。

ちなみに、川端さんはこちらにはあまり出没はしませんが、コメント等は必ず読んでいただける仕組みになっておりますので、今後とも引き続きよろしくお願いいたします。
Posted by Pさん at 2009年02月08日 19:36
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