川端裕人さんの「みんなのPTAを探して」(「婦人公論」連載:2007/4〜2008/3)のバックナンバーを「ブログ版」として公開しています。(著者公認)
 はじめていらっしゃった方は、まずは著者本人の「ごあいさつ」をお読みください。
管理人:Pさん
 

2007年10月23日

第4回 役員はえらいわけじゃない


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 役員は「横の団体」であるPTAを、それこそ横横無尽に移動する。学級PTAに「個々の会員」として参加したり、運営委員会では司会を務めたり、外の団体の前では会長やら副会長やらとして「代表」になったりしつつ、PTAが「個々の会員が主役」であれるよう、風通しよく運営する責任を負っている。

■ 縦じゃなくて横


 PTAってなにをするところ?

 これだけ「有名」なのに、今ひとつ知られていないように思える。自分がやっていることを「未体験」や「無関心」な人に説明しようとしてもギャップが大きすぎて困難を感じることが多い。連載第1回に引用したぼくのブログのコメントにも、「得体の知れないオトナの事情漂う秘密組織」なんてものがあったっけ。

 じゃあ、本当のところなにをするところ? どんな組織なの? といったことを、「未体験」「無関心」だった人でも分かるような水準で解明するのも、本連載の主たる目的のひとつだ。こういう素朴な問いに答えようとすれば、「経験者」や「経験中」の人にも必ず新しい発見がある。ぼく自身「経験中」の身として、勉強しつつ書いている。
 というわけで、今回は「PTA構造篇」。各論に入る前に、組織図などをひっぱりだして、じっくりと眺めてみたい。
 なぜかというと──、それが実に感動的なものだから、だ。「強制加入問題」について文句たらたらなぼくが、ガツンと一発、頭を殴られたような衝撃を受け、「PTAいいじゃん」と思える理由のひとつが、ここに凝縮されている。

 例によって引用もとは、世田谷区の小学校PTA連合協議会と教育委員会が発行している「PTAのしおり――みんなで学ぶPTA」。世田谷区の公立小学校のに配布されるもので、本当によくできた小冊子だ。
 じっと見てほしい。この組織図、おもしろい部分がある。会社やら、多くの組織図との違いにお気づきだろうか。

 ひとことで言うなら、
「縦じゃなくて横」ということだ。

 縦でも横でも、どっちでもいい?

 でも、この図を作成した人は、どうでもよくはなかったらしく、縦にした方があきらかに書きやすそうなのを、少々きゅうくつにしてまで横にしてある。
 これについて、この小冊子ではこう注釈する。

上の組織図を見てもわかるように、PTAの組織や運営の基盤は、会員一人ひとりにあります。

 PTAが徹底して民主的な組織であり、個々の会員が「主役」であることを強調しているのだ。

 左端にいるPTA会員、1年から6年までの各学級代表や各委員会の委員、そして、運営委員会、総会までが横並びになる。なにかと偉そうなイメージのあるPTA会長ら役員は、運営委員会と総会の間にぶら下がっている始末。

 ここまで、会員が相互に平等であることを強調する組織は珍しいのではないだろうか。

■ 保護者と教師が対等に


 もっとも組織の形など、いわば絵に描いた餅だから、目的や活動内容をちゃんと見ておこう。前掲資料が挙げる、PTAの目的とは─────

子どもの健全な育成と幸福を目指して、お互い(会員である保護者と教師)が、子どもの健全な育成と幸福を目指して、お互いに学習しあい、その学習に基づいた活動をいっしょに進め、よい保護者、よい教師になるように努めることになります。(括弧内は引用者)

 とまず、保護者と教師相互の学び合いが強調される。さらには─────

─────その成果を家庭教育や学校教育に役立てると共に、お互いの協力によって、地域社会の環境づくりや子どもの郊外生活の充実のための活動を活発に進めることにあります。

 つまり、保護者と教師が、ともに学習し、結果として、よりよい保護者、教師になるのが第一。すると、家庭教育や学校教育が充実し、さらには地域社会や子どもをめぐる環境もよりよいものに変えられる……。書いてみるとなんとも気宇壮大なことを述べているのだ。
 保護者と教師が学び合うというヴィジョンがいい。家庭教育と学校教育という、違う面で教育にかかわる者たちが、対等な立場で意見を交換できるフォーラムがあるというのは実に得難いことだと思う。

 また、戦後に育った世代にとって、地域社会との結びつきを再構築するのは、今や普遍的なテーマだから、時代のニーズにマッチしたことを「目的」に据えているともいえる。

 こういったことは、なにも世田谷区のPTAだけの話ではなく、今から60年前のPTAの設立主旨そのものと言ってもいい。つまり、それだけの射程と守備範囲を持った組織として、PTAはもともと構想されている。
 そして、「PTAのしおり」は、「学習から始まるさまざまな活動」として、6つの柱を挙げている。
  1. 学校教育に対する理解と協力(授業参観や懇談会、学校協議会などへの参加。学校評価、学校行事への協力、広報活動など)
  2. 家庭教育の充実(家庭教育学級の開催、学年・学級・地域などの集会での話し合い、講演会・研修会・講座などの学習活動など)
  3. 子どもの校外生活指導(PTA子ども会の活動、交通安全教室、地域パトロール、通学路の安全点検、親と子の集い、地域清掃など)
  4. 地域の教育力の向上(地域諸団体との共催行事、地域諸行事への参加、青少年健全育成運動への参加、青少年委員との連絡・連携、危険地域の改善など)
  5. 教育に関する正しい世論づくり(調査研究活動、学校評価、学年・学級・地域などの集会での話し合い、広報活動、PTA研修会など……)
  6. 教育環境を改善する要望活動
 なんだか凄くないですか。
 ぼくは素直に凄いと思う。これは、すでに「行われていること」なのだ。

 もちろん、額面通りの効果を上げているかどうか問い始めたらきりがない。しかし、とにかく、公の文書の中で、高らかに述べることができるほどに、ちゃんと活動は行われてきており、また、受け継がれていこうとしている。これって、やはり凄いことだと思うのだ。

■ キモは横並び≠フ配置


 その上で「横と縦」の話。

 ここまで読んだら、もう理解していただけると思うのだが、PTAの活動の「主役」は、理念の上でも、実際にも、個々の会員だ。個々の会員がさまざまな形で、活動に参加し、組織の方向性を決定していくことができる構造が最初から出来上がっている。

 例えば─────まず総会がある。

 総会にはすべての会員が出席する権利があるし、また発言をして、意志決定にかかわることもできる。いわゆる「直接民主主義」というやつだ。
 もっとも、総会は年1回のところが多い。頑張っているところでも、年2回だ。1948年に文部省が公表した「第一次参考規約」では、「少なくとも月1回」と書いてあるのだが、今では想像もできない話だ。

 それでは、普段は会員は何をしているかというと──、学級PTAを通して、さまざまな活動にかかわっていく。保護者会員は子どもを通じ、教師会員は担任として、所属するクラスがあるから、それが活動の1単位になりやすい。
 さきほどの組織図で言えば、学級から選ばれて学年・学級委員になったり、文化厚生委員になったり、広報委員になったりする。また、組織図には書かれていないけれど、ほとんどのPTAでは委員会とは別に(あるいはその中に)、「係」を持っていて、委員会よりも負荷の軽い役割をあてている。たとえば「運動会係」「総会係」「盆踊り係」「芋掘り係」(楽しそう!)といったふうに。さらに、委員会や係の活動をしなかったとしても、すべての会員は学級PTAの懇談会には参加して意見を述べることができる。

 結局、会員・学級・総会が横並び配置されているのが、PTAのキモなのだ。

■ 役員の立ち位置って?


 とはいっても、組織を動かしていくのだから、これだけでは足りない。
 必要なのは推進役であり、調整役だ。
 それが役員である。

 総会を運営するのは役員だし、ひとたび総会で各委員会が承認されて動き出した後は、運営委員会(通例、各委員会の委員長と副委員長、学年・学級委員、そして役員が出席)を開催したり、学校との間に入って調整したり……等々、PTAがPTAとして正常な活動をしていけるよう、会員に対して責任を持つ。また、PTAには対外的な関係がたくさんあるから、しばしば自分が属するPTAを「代表」する立場にもなる。

 ちなみに、PTAが最も日常的に接触する「外部」団体とは、実は学校だ。なぜ、わざわざ括弧付きで「外部」と書くかというと、PTA室は学校の校舎の中にあるし、教師も会員なので、内部なのか外部なのか意識の上でごちゃごちゃになるからだ。
 切り分けるには、例えば「労働組合」を考えてみるとよい。労組も事務局を社屋の中に置き、構成員も会社とダブるわけだが、会社の内部組織ではなく独立団体だ。社会教育関係団体であるPTAも同じだと考えてよい。もっとも、労組はしばしば会社と鋭く対立するけれど、PTAは理解と協力を本旨とする部分で大きく違うのだが。

 閑話休題。

 役員は「横の団体」であるPTAを、それこそ横横無尽に移動する。学級PTAに「個々の会員」として参加したり、運営委員会では司会を務めたり、外の団体の前では会長やら副会長やらとして「代表」になったりしつつ、PTAが「個々の会員が主役」であれるよう、風通しよく運営する責任を負っている。

■ 忍び込む縦≠フ発想


 ところが、悩ましきは「縦と横」、でもあるのだ。
 横のものが縦になってしまう、という現象がよく起こる。

 役員はえらそばってはならない。実際に、えらいわけじゃないのだから。ぼく自身そう心がけたいし、また、ぼくが知る限り、えらそうにしている役員、という存在自体を見たことがない。
 にもかかわらず、意識の中に「縦」の発想がしばしば忍び込む。会長について話す時、過剰な尊敬語を使ってしまったり、「この案件は運営委員会に上げて」とか「クラスに下ろして」と言ってしまったり……。

 縦の組織である学校(校長と教員の関係は、むろん横ではなく縦)と並び立っているから、その組織モデルを無意識のうちに取り入れてしまう、ということもあるかもしれない。いや、それ以前に、ぼくたちが「横」の組織運営に慣れていないということの方が大きいだろうか。

 だとしたら、やはり「横」であることを、かくもはっきり、きっぱりと具現化しているPTAというのは凄いのである。つい「縦」に引き戻されるぼく(ら)ってどうよ、という問題を抱えつつ、ここでは、とりあえず、PTAの凄みの方を強調したいのだ。

著:川端裕人
(婦人公論 2007.6.7 掲載)

PDF版注釈
 この文書は、川端裕人が中央公論新社の「婦人公論」誌上にて、2007年4月より1年間にわたって連載した(文書作成時は連載中)、「みんなのPTAをさがして」をPDF化したものです。多くの人に読んでいただくために、ブログ・リヴァイアさん、日々のわざ にて公開することにしました。このままの形であれば、自由に複製・配布してくださってかまいません。
 なお、このPDF版は、入稿時の原稿を元にして、体裁を整えたものです。誤字脱字などの誤りは、多く残っており、また、細かな点で、雑誌掲載時とは違う部分があることはご承知置きください。
川端裕人
posted by Pさん at 20:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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