川端裕人さんの「みんなのPTAを探して」(「婦人公論」連載:2007/4〜2008/3)のバックナンバーを「ブログ版」として公開しています。(著者公認)
 はじめていらっしゃった方は、まずは著者本人の「ごあいさつ」をお読みください。
管理人:Pさん
 

2007年12月05日

第11回 学校と地域を結んだ大先輩に聞く


本家関連エントリー
 岸裕司さんとの対話 (2007.9.10)
 婦人公論第11回「岸裕司さんとの対話」PDF版 (2007.12.5)


 「決断してやってみると、何かにぶつかるし、違和感をもつし、でもそれが経験だ」という考えには、本当に意を強くする。いろいろ経験できるからPTAなのであって、結果、寛容になれるなら、ぼくたちはひとつ賢くなったのだと思う。

■ 小学校を拠点に町づくり


 ゆーさんこと岸裕司さんは「大きな人」だ。いつも笑顔で周囲をふんわり包んでしまう。ぼくにとってはPTAの大先輩でもあって、著書『学校を基地に「お父さんの」まちづくり――元気コミュニティ! 秋津』(太郎次郎社、1999年)で描かれる「PTAから始まった町づくり」には、これまで何度も力づけられた。

 舞台は、千葉県習志野市秋津。2400世帯のニュータウンの住民たちが、小学校に拠点をもつ生涯学習団体「秋津コミュニティ」を立ち上げる。各種サークルが登録し(現在35団体)、余裕教室などを使って活動するだけでなく、学校に拠点がある「地の利」を活かし、学校のさまざまなクラブ活動にも指導者として参加することがある(パソコンクラブやスポーツクラブ等)。また、「小学校と地域の大運動会」「秋津音楽亭」(住民による音楽会)等、学校と地域を結ぶ活動も手がけている。20年にわたり何歩も先を行く「学校と地域の連携」(ゆーさんの言葉で学社融合)を実践してきた。そして、ここにいたるきっかけが、86年、ゆーさん自身もかかわった小学校PTAの改革だった。

 ゆーさんとは『「パパ権」宣言!』(大月書店、2006年)という本を一緒に作った縁で、何度もお会いしている。いつでも聞けると思うとつい聞かずにすませることも多く、それはもったいないと反省。お話を聞きに行ってきた。

■ 「子どもの健全育成」の前に


――ゆーさんとPTAとの出会いって、どんなふうだったんですか。PTAは実は生涯学習に通じるんだということに思いいたった経緯というか……。

 ぼくがかかわったのは、学校創立から6年経った時期で、子どもの数がグーンと上がってから落ち始めた頃。これからのPTAをどうしようかと悩み始めていました。それで規約検討委員会の委員が公募されて、立候補したわけです。ぼく自身、PTA会員でありながら規約なんて読んだことがなかったのですが、自分に腹を立てるような事件(筆者注・前出『学校を基地に〜』に詳述されています)があったので、ちょうど良かったとばかりに……。

――そして、PTAの目的と活動について、考え直した、と。

 最初はね、「子どもの健全育成を図ることを目的に」とかあったんですよ。でも、会員は保護者と教職員なので、第一義的には保護者と教職員が学びあうってことだろう、と。そういう視点なんですね。相互の理解と資質向上。

――その成果を、家庭教育・学校教育、つまり子どもの健全育成に役立てる。

 そう、結果としてそうなるに決まっているわけです。「P」と「T」がよく理解しあったことを、どう具体化するかという議論になっていけば、ぼくらが目指してやってきた、クラブ活動をはじめとする「授業への参画」――「授業参観」ではなくて、「授業参加」という発想が出る。さらには、「ああ、私も学んでるんだな」とか、「学んだ成果を子どもに還元する喜びが得られるわ」と。そうなると生涯学習者になるんですよね、単なる保護者じゃなくて。そこから「あ、PTAってそういうこともやってくれる機関なんだ」ということになるし、「自分の子どもの笑顔は、隣の子どもの笑顔とともにある」なんてことに気がついていったりして。

――会員の資質向上をきちんと目的に据えることで、そんなふうに展開していった、と。でも、「健全育成」の前に「相互の理解と資質の向上」って、すぐ理解してもらえました? すんなり?

 いきません(笑)。だから最初はもう……。規約検討委員に、一応、立候補はしたけども、今までの経過を何も知らないから。ズーッと半年ぐらいは聞き役で、もっと時間が経ってから、「ところで、やっぱり目的そのものも見直そうよ」と。でも、ヒロちゃんの世田谷区なんて理想的だよね。区のパンフレットにそう書いてあるもの。

――恷qどもの健全な育成と幸福を目指して、お互いが学習しあい、その学習に基づいた活動をいっしょに進め、よい保護者、よい教師になるように努める掾Bぼくもこの文言は好きで、いつも念頭においています。

■ 先生のニーズを察知する


――授業に保護者や地域の人たちが入っていったときはどうだったんですか。ある瞬間に、学校が「あっ、こいつら本気だ。ちゃんと受け入れよう」みたいな感じになってきたんでしょうか?

 なかなかむずかしいんだけど、むずかしいっていうのは、「学校」は建物じゃなくて、そこで働いている教職員なわけですよね。そして教職員にも異動がある。まずぼくが気がついたのは、「担任が一番長いんだ」と。習志野の場合は、担任が最長7年いられる。校長とか教頭とかは、結構「いつでも学校に来てください」「なんでも言ってください」とか言うんだけど、でもその下の人たちが動くかどうかっていうのは、同じ学校のなかの教職員関係のパワーバランスがあるわけですよ。そこをジーッと見ていたんですね。それで、自分たちの子どもに一番近い担任が、元気になるのがまず一番と。(笑)
 授業参観は土曜日でしたし、参観を2時間ぐらいやって、あと1時間ぐらい学級懇談会でしょう? でも、学級懇談会にだいたいお父さんは残らないんだよね。ぼくは残るようにしたの。


――土曜日にまだ授業があった頃で、参観と懇談会を一緒にやってたんですね。

 そう、だからそういうとき、「先生、何か困っていることありませんか?」とか、そういう目線で声掛けすると、先生によっては、それなりに出てくるわけですよ。そこから協働できそうなことを意識し、できることから始めていく。「生活科というのが翌年から始まる」というのがわかったり、「飼育小屋が貧弱だ」とか「野犬に襲われた」とか。「じゃあきちっとした小屋がほしい?」って言ったら、「ほしい」ってなるわけで。(笑)
 先生がほしがっていたり、先生がより良い授業をするために必要と思っていたりすることで、保護者のほうで可能なことを探して、提案して、実現させていくとグングン変わります。


――提案ですよね。ニーズを察知し、提案し。はい、大変重要なことを教えていただきました。(笑)

 でね、あとで気がつくんですけど、その感覚ってビジネスなんですよね。一般的に「ビジネス=金」だから教育と合わないっていう感覚があるけど、別に金でどうこうしようと思っているわけではなく、発想法として、ビジネス社会に学んできたノウハウを使ってたんだと。そうすると、お父さんは、非常によくわかってくれるんです。たとえば、先生にとっての勤務時間外にイベントをやりますよね、バザーでもなんでもいいんだけど。そうすると、なかには違和感をもつ先生がいるわけです。当然ですよね。「勤務時間じゃない」とかね。

――なるほど、それはそうですよね。

 でも、終わったあとに、保護者のなかで「あの先生は来たけど、何々先生来なかったわね」って声が出る。悪気がなくても。その声が先生の耳に入ったら、当然いやですよね。そうでなくったって「PTAなんて、私には関係ない」と思っている先生がほとんどなんだから、最初は。そういう声を聞いたときに、「あなた、その言い方はまずいよ」って。「たとえばあなたのだんな、土曜日休みじゃないか。そのだんなが勤めている会社の地域でお祭りがあるから、社長が『無給出勤で来い』って言うかい? 言わないでしょう?」「そりゃそうだよね」って、はじめて相手の勤務形態について気付いたり学んだりするわけです。やっぱり相手の立場を考えながら、声掛けしていくとか、行事を作っていくとか、そういう配慮をしていかないと、同じ仲間にはなかなかなれないと。

――そういう発言は先生に対してだけに限らず、同じ立場の保護者の会員同士でもありますからね。大変心痛みます。寛容でない。相手の立場をわかっていなかったり……。

 僕はね、その「寛容になれない」っていうのは、経験の問題だって思うんですよ。かつての自分がそうで、PTAに無理解だったし、どこかで男社会の上位性みたいなのが無意識のうちにあったりして。それをワイフに指摘されて「すみません」(笑)。そんなのの繰り返しだからね。今だって、同じこと言われかねない。だから、「親とは何なのか」を、社会性として学んでいく一番身近な機関として、PTAがあるって思ったんですよ、やっていくうちに。
 

■ 決断エネルギーは大切


――お子さんが就学を控えた親がいたとします。その人にPTAについて説明してあげるならば、どんなふうにしますか? 「岸さん、もうすぐ子どもが1年生なんですけど、PTAってなんかめんどくさそうなんですよね。妻もすっごいプレッシャーみたいで〜」って、若き青年が悩みを相談してきたら。

 困っちゃうな(笑)。ただ、まあ最初に言うのは、「あ、良かったねえ。ぜひ役員やんなよ」って。きっと言うと思うよ。

――……(笑)。内容は?

「まあ、いろいろあるから、とにかくやってみたほうがいいよ」って、たぶん内容は言わないで(笑)。経験しないとわかんないだろうから。それはね、「独立したい」なんていう人に対してもいつもそう。そういうエネルギーって、ものすごく重要だと思うんです、人生に。「決断エネルギー」ね。何か決断してやってみると、何かにぶつかるし、違和感をもつし、でもそれが経験だと思うし。
 特にPTAは、基本的に子どもに関係することですから。子どもがいることそのものが、実は社会において大変重要なポジションなんだと、その自覚を自分の中に取り込んでいくためにも、ぼくはやったほうがいいと思う。

 

■ 楽しいことしかやらない!


 お話をうかがって……。

 ゆーさんの考えはシンプルだ。

「PTAは会員が相互に学び資質向上を図る場」という、設立時の理念に立ち戻ることで、閉塞感のある「今」を変える可能性があるのだというのが、いつも勇気づけていただくポイント。「決断してやってみると、何かにぶつかるし、違和感をもつし、でもそれが経験だ」という考えには、本当に意を強くする。いろいろ経験できるからPTAなのであって、結果、寛容になれるなら、ぼくたちはひとつ賢くなったのだと思う。「『親とは何なのか』を、社会性として学んでいく一番身近な機関」としてのPTAをなんとか盛り上げたいな。

 ただ、焦りは禁物。ゆーさんだって、最初の半年は黙ってたそうだし……。本のなかでほんの1行か2行で書かれていることが、実現するのに何年もかかっていることもある。役員ライフのなかで、ゆーさんの本の「行間」が読めるようになったのもまさに「経験」なのだ。

 最後に、ひとつ聞き忘れたことを思い出した。ゆーさん、なんでそんなにいつも笑顔なんですか、と。これはしばしばどんよりした気分になってしまう青二才のぼくにとって、かなり重要な問題。以下、メールでの回答。 

 私はいつの頃からか「楽しいことしかやらない!」って決めちゃったので、「いつも笑顔の岸さん」になりました。楽しいことしかやらないので、笑顔にどうしてもなっちゃうんです。そして、「なんで岸さんはいつも楽しそうなんだ」「学校通いが楽しいのかなぁ、じゃあ私も」てな感じで、仲間が増えてきました。
 では、アディオス! アミーゴ!

 はじめてメールをもらったときには度肝を抜かれたけど、ゆーさんはいつもこんなかんじだ。心にラテンの血が流れているみたい。

 アディオス! アミーゴ!

 また会う日まで。そのときも、いろいろ教えていただきます!

著:川端裕人
(婦人公論 2007.9.22 掲載)

PDF版注釈
 この文書は、川端裕人が中央公論新社の「婦人公論」誌上にて、2007年4月より1年間にわたって連載した(文書作成時は連載中)、「みんなのPTAをさがして」をPDF化したものです。多くの人に読んでいただくために、ブログ・リヴァイアさん、日々のわざ にて公開することにしました。このままの形であれば、自由に複製・配布してくださってかまいません。
 なお、このPDF版は、入稿時の原稿を元にして、体裁を整えたものです。誤字脱字などの誤りは、多く残っており、また、細かな点で、雑誌掲載時とは違う部分があることはご承知置きください。
川端裕人
posted by Pさん at 21:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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