川端裕人さんの「みんなのPTAを探して」(「婦人公論」連載:2007/4〜2008/3)のバックナンバーを「ブログ版」として公開しています。(著者公認)
 はじめていらっしゃった方は、まずは著者本人の「ごあいさつ」をお読みください。
管理人:Pさん
 

2008年02月07日

第15回 PTAとタッグを組んだ校長先生だっている


本家関連エントリー
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 和田中における藤原和博校長の取り組みは、学校(校長)とPTA(保護者側)の関係のモデルとして、とても刺激的で、また心強くもある。

■ 民間人校長にして改革者


 杉並区立和田中学校藤原和博校長は、今、日本で一番勢いのある教育者だ。リクルートを退職し、2003年に着任して以来、平凡な公立中学校をどのように改革したか、興味のある方は、著書『校長先生になろう!』(日経BP)や『公立校の逆襲』(朝日新聞社)をご一読のこと。特に前者は、全国の公立中学校に10年間で3000人の民間出身校長を誕生させて教育を変革すべきと説く挑発的な書。

 数々の改革の中でも、「地域本部の設立」が、PTAのありかたを考えるうえで示唆に富む。土曜日にボランティアが授業をしたり(土曜日寺子屋=ドテラ)、英検準2級(!)を目指す生徒のために特別授業を運営したり、校庭の芝生を維持管理したり……さまざまな事業を自律的な「本部」として行う。学校と保護者と地域が連携して、子育て、教育にかかわることが推奨される今日、はっきり筋の通ったやりかたがここにある。

 ちなみに、和田中の地域本部は、PTA会員OG、OBが中心になっている。では、藤原校長にとって「現役」はどう位置づけられるのか。そこに、PTAと校長の良き関係についてのヒントがあるにちがいない。

 まずは、ぼくにとって切実な疑問から。

■ パートナーとして味方として


――校長にとってPTAって何でしょう? いきなり素朴な質問で恐縮なのですが……。

藤原 一般的に、校長はPTAや地域のことを、「PTA対策」や「地域対策」と言って、半分怖がっています。最近クローズアップされてきた「モンスターペアレンツ」よりはるか前から、「口うるさくて困る」「要望が強すぎる」などと言って手伝わせるところだけ手伝わせておきながら、文句は言わせない、というやりかたを「PTA対策」と称して、校長同士で情報交換しているわけですね。

 ぼくの場合は、完全にパートナーだと思っているので、PTAの役員会はほとんど出ますし、そこで今、学校として何が起こっているか、とりわけ何を考えていて次にどういう手を打つかを、職員会議よりも先に話すことすらあります。それでどういう反応だったか、職員会議で言ったり。「いやもう、大賛成でさ」なんてね。


――そんな校長先生ってやっぱり珍しいと思うので、最初は保護者側もびっくりしてませんでしたか?

藤原 そうね。ベテラン校長から、「1年目は何もしないで様子を見ろ」と助言があったのですが、ぼくは5年間の契約で、まず3年で見直しがあることになっていたので、いきなり始めなければスピードがつかない。最初の3ヵ月だけでも、10、20、ガガガガッと改善をしましたから、そのスピードにはPTA役員もびっくりしたとは思います。でも、教員のほうがよっぽど戸惑って、反発もありましたよ。当時のPTA役員は、会長はじめ腹が据わった人が多かったなあ。

――よく勉強している方たちだった?

藤原 それ以上に仕事のできる人たちだったんです。ちなみに「地域本部」を立ち上げたのは、その時のPTA会長です。もともとIBMのシニアSEでね。専業主婦になって3人のお子さんを育てられて、その3人の子の末娘が和田中の3年生だった。その子が卒業するでしょう? 上の子はみんなもう高校生・大学生だから子育ても一段落。そこで地域本部を立ち上げるという仕事を、ぼくとタッグを組んで見事にやってくれた。他の役員の方々も、それぞれ、看護師の経験がある人だったり、会社でクレームの対応の窓口をやってた人だったり。そういう意味では、PTAにはものすごく優秀な人が多いんですよ。

――それは、本当にそうですね。

藤原 これを味方にしないで、何が学校経営だと、ぼくは思います。

■ お母さんと共同開発


――杉並には、保護者から入会届を受け取ってはじめて会員になる任意加入のPTAが多いですよね。そこのところ、ぼくは羨ましいんですけど。

藤原 その点はあまり気にしていません。肝心なのはむしろ情報をどれぐらい共有してるか、だと思っているので。入学式の時に、役員選びが始まると、だいたいみんな下を向いちゃって、急に下の子が病気がちだとか、おじいさんの介護とかの話が出る。「ええ? そうだっけ?」みたいな。そういうのは見ているだけでも悲惨なので、ぼくははっきり「うちの学校は役員になったほうが得する」って言っちゃいます。

 どう得するかっていうのは、もちろん子どもの成績に「1」プラスするとか、そういうことではない。試験の問題を先に見られるわけでもない。でも、少なくともこの学校が経営としてどういうことをやるか、場合によっては教員よりも先に知らせます、って。


――うーん、それはすごい。

藤原 つまりテストマーケティングで、運営委員会の時に「こういうのをやるとしたら、どう思いますか?」と聞いてみるわけ。たとえば50分授業を45分制にして、週28コマ授業を32コマにしたい、というようなことをね。この案は運営委員会で先に言っちゃったんですよ。3コマを4コマにできるんだからそのほうが当然、数学や英語は手厚くできますよ、と。その代わり生徒の学習の負担は、1日6コマが7コマになったりするところがあるので、増えますよ、と。「お母さんたちどう思いますか?」と。朝礼で聞くと、生徒は8割反対ですよ、当然。だけどお母さんたちは、100%賛成。そういうことを先に投げかけて、言ってみれば、共同開発してるわけです。

――PTAは最初、手近なマーケティングの場所だったんだけれども、理解が深まるにしたがって共同開発できるようになったっていうイメージですか?

藤原 そうですね、だんだんと共同開発できるようになってきた。「土曜日寺子屋」に英語コースを作る時もそうです。地域から英検対応の講師を招くわけですね。今、3年目に入るんだけど、英検準2級の取得者が倍増しています。そのコースに参加する子の保護者は、どれぐらいの負担が可能なのか、月3000円なのか、6000円なのか。ただ安いというのだと、継続できなくなってしまう。ボランティアが結集する時に負担が払えるぐらいのギリギリの額、そんな相場感を2むためにも、PTAの運営委員会で意見を聞きましたし。

――何かびっくりするような提案など、ありますか。

藤原 新しい制服を決める時に、女子のセーラー服とジャケット、どちらが本当にいいのか、決着がつかなかったことがありました。好みの問題だとすれば、両方用意するしかないという結論を仮に出して、それをどう思うかをお母さんたちに投げかけた。思いもよらなかったのですが、何がお母さんにとって一番嬉しいのか。それは、洗えることだったんです。だから、うちの制服はジャケットまで全部ウォッシャブルですよ。そういうことを取材してお母さんたちのニーズに応える結論を出して、職員会議に提案しました。そうしないと、ただ「変える」というだけで、「だめ」を出す人が職員室には多かったから。理論武装するために、お母さんたちとの徹底的な共同開発のためのブレーンストーミングが必要だったわけです。

■ 何はなくても必要な情報公開


――藤原先生のようなやりかただと、運営委員には自分の意見を言う場所があって、学校経営の役に立っている実感を持ちやすいですね。PTAの最大の課題は、モチベーションの維持だと思っているんですけれども、うまくマネジメントされている気がします。かなり意識されてますか?

藤原 もちろん。ぼくが前にいたリクルートという会社が、情報の共有にかけてはおそらく世界中で一番進んでいる会社でしたからね。アルバイトの人にも、ほとんどの情報を公開していた。だから、リクルートのアルバイトはよく働くんですよ。

――うん、うん。わかります。

藤原 情報を公開しないで、「働け」なんてのは、まったくナンセンスですね。だから必要以上に情報を知らせてしまうことで、働かざるをえなくさせるんですよ。ベクトルを共有することになるからですよね。学校がどっちに行くかということを共有するでしょう? あとは好き嫌いの問題があるけど、基本的にはPTAの役員をやる人は、働くのが嫌いじゃないわけですよね。

――人の役に立つ喜びを知っていますよね。

藤原 ほんとそうですよ。小学校と中学校が違うのは、小学校はPTAの延長で、うちの学校の「地域本部」でやっているような活動ができる、という点です。「親父の会」みたいなことを極度に高めれば、秋津小学校(注・本連載でも紹介した、岸裕司さんの秋津コミュニティの活動拠点の小学校)になるわけです。秋津とはちょっと違うけど、似たモデルは杉並にも出てきています。ぼくがやっている地域本部のような組織を3年以内に設置しなければ予算をあげないと教育長が言い出した。だから、ここからの杉並区の変革は早いですね。校長って命じられるとじつは弱いんですよ。

――ただ、校長にもいろいろいますから、情報を共有せずに、PTAに「地域本部をやれ」っていうふうな人だと――。

藤原 だめだね。それは話にならない。そんなことを言う人は経営者として経営の「け」の字も知らない人でしょうね。はっきり言って、校長には事務長のまま留まってる人が多いんですよ。経営者でも、マネジャーでもない。「うわあ、やっと校長になれた。一国一城の主に」と喜んでしまって。まあ”上がり”の職ですからね。そのくせ教育長が出てくる忘年会には、教育長の前にズラッとビールを持って並ぶ……。サラリーマンでも今どきやりませんよ。

――なんともコメントしがたいです。

藤原 結局、PTAのほうがレベルが高いんですよ。なぜこんなふうに学校の信頼度が落ちてきたかというと、一方には総合的に経済力が上がってきて、学校というものが眩しい存在でなくなったことがある。それと決定的だったのは、1970年代ぐらいに、保護者の相対的な学歴が教員のそれを超えたんですよ。そこから、言ってしまえば「なんであんな担任にうちの子が」という感じが出てきたのです。

――そのわりに、ほとんどの保護者は学校ではおとなしくて本音を言わない。みんな「おかしい、おかしい」と思ってるのに、沈黙のスパイラルに陥って……。

藤原 人質を取られてますからね。

――お互い本音が言えないから、同じものを見ながら、おそろしく違う捉えかたをしている気がするんですよね。ぼくにとって、いや、保護者にとって、校長も学校も、謎が多いです。

藤原 いい解決法がありますよ。公立校の校長をやってみればいい。ぼくの本を読めば全部書いてあるけど、教員免許がなくてもできるんだし、やれば謎はぜんぶ解けますよ。

――ええっ、それはちょっと……。(笑)

■ オープンな姿勢が潤滑油


 PTAとは、学校経営のパートナーであり、共同開発者である。そして、それを機能させるには、校長が経営力を発揮し、徹底的な情報公開・共有を行わねばならない、というのが藤原校長の明快な結論。ちなみに、和田中は職員会議までも「公開」なのだそうだ。もちろん、生徒個人の情報に関する部分などは明かせないし、また、保護者側も遠慮があるのか、今まで傍聴しに来た人はいないそうだが、オープンな姿勢が良い循環を生むのは容易に想像できる。

 学校(校長)とPTA(保護者側)の関係のモデルとして、とても刺激的で、また心強くもある。和田中のPTA役員だけでなく、取材者のぼくまでモチベーションを高めていただいた。

 なお、今回は「PTAと校長」というテーマに終始したけれど、「PTAと地域の関係」についても、刺激的な話をうかがった。これについては、いずれ。

著:川端裕人
(婦人公論 2007.11.22 掲載)

PDF版注釈
 この文書は、川端裕人が中央公論新社の「婦人公論」誌上にて、2007年4月より1年間にわたって連載した(文書作成時は連載中)、「みんなのPTAをさがして」をPDF化したものです。多くの人に読んでいただくために、ブログ・リヴァイアさん、日々のわざ にて公開することにしました。このままの形であれば、自由に複製・配布してくださってかまいません。
 なお、このPDF版は、入稿時の原稿を元にして、体裁を整えたものです。誤字脱字などの誤りは、多く残っており、また、細かな点で、雑誌掲載時とは違う部分があることはご承知置きください。
川端裕人
posted by Pさん at 06:25| Comment(1) | TrackBack(0) | 記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この3月まで小学校PTA会長をしていました。現在は中学校のPTA副会長をしています。学級PTAに関して検索をかけているうちにこのサイトに遭遇しました。もっと早くにこのサイトを知っておれば、と悔やまれるほどの内容です。本はぜひ購入させていただきます(笑)。

ただ、この杉並区の和田中の事例については、川端さんがカリスマ校長の藤原氏に対して全く批判的なスタンスを取っていないのが気になります。私はこの和田中に関しては「夜スペ」などについての外形的な情報しか持っていませんでしたが、このインタビューで非常に気になった点があります。

まず地域本部ですが、PTAのOB,OGがいつまでも幅を利かす存在とならないか、が心配されます。

また、「共同開発」の名目で、カリスマ校長が地域本部を縦横に動かして現場の教職員に「圧力」をかける図式になっているようにも見えます。

川端さんが理想とするPTAとは全く違う状況がそこにあるような気がします。
Posted by Eddy at 2009年04月27日 22:48
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